この記事の結論

事業を誰かに引き継ぐと決めたら、思いつきでは進まない。事業承継は、何年もかけるプロジェクトだ。後継者の選定と育成、株(経営権)の移転、関係者の合意、税務・法務の設計——これらを、計画的に、段階を踏んで進める。早く始めるほど、円滑に、そして有利に承継できる。引き継ぐと決めたら、長期の計画として、準備に取りかかる。

この記事は、Lv.5(拡大期)の一人社長に向けて書いています。

承継は「一大プロジェクト」

事業を、家族や信頼できる相手に引き継ぐ——事業承継は、一人社長の事業の、一つの集大成だ。だが、これは、ある日決めて、すぐにできるものではない。

事業承継は、後継者の育成、経営権(株)の移転、取引先や従業員との関係の引き継ぎ、税務・法務の手続きなど、多くの要素が絡む、一大プロジェクトだ。しかも、そのほとんどに、時間がかかる。思いつきや、引退間際の駆け込みでは、うまくいかない。引き継ぐと決めたら、何年もかけて計画的に進める、という覚悟が要る。事業承継計画は、その長い道のりの、設計図だ。

後継者の「選定と育成」

事業承継の出発点であり、最も時間がかかるのが、後継者の選定と育成だ。

誰に引き継ぐのか。家族か、従業員か、第三者か。後継者を選ぶこと自体、簡単ではない。そして、選んだ後継者が、すぐに経営を担えるとは限らない。経営の知識、判断力、取引先との関係、事業の理解——これらを、時間をかけて育てる必要がある。

後継者の育成には、数年かかることも珍しくない。だから、早めに後継者を見定め、計画的に経験を積ませ、徐々に責任を移していく。「気づいたら引退の時期で、後継者が育っていない」では、承継は破綻する。後継者育成は、承継計画の中核だ。

株(経営権)の「移転」を計画的に

事業承継では、経営の実権だけでなく、株(会社の所有権・経営権)の移転も必要になる。そして、これには、税金が絡む。

株を後継者に渡すと、その評価額に応じて、贈与税や相続税がかかる。会社が成長しているほど、自社株の評価額は高く、税負担も重い。だから、株の移転は、税負担を踏まえて、計画的に進める。一度に渡すのではなく、何年もかけて少しずつ移す、評価額の対策をする、といった工夫が要る。これは、自社株評価の論点とも、深く関わる。株の移転は、早く計画的に始めるほど、有利に進められる。

関係者の「理解を得る」

事業承継は、経営者と後継者だけの問題ではない。取引先、従業員、家族など、多くの関係者が関わる。彼らの理解と協力なしに、円滑な承継はできない。

  • 取引先に、承継後も安心して取引を続けてもらう
  • 従業員(いれば)に、新体制を受け入れてもらう
  • 家族に、承継の方針を理解してもらう

これらの関係者との合意形成も、時間をかけて進める。突然「来月から代替わりします」では、関係者は戸惑い、取引や信頼が揺らぐ。早めに、丁寧に、関係者の理解を得ていく。人と関係の引き継ぎは、目に見えにくいが、承継の成否を分ける。

専門家を交えて、税務・法務を設計

事業承継は、税務(贈与税・相続税・自社株評価)、法務(株式の移転、会社の手続き)が複雑に絡む。これらを、自分だけで設計するのは、現実的でない。専門家(税理士、場合により弁護士など)を交えて、計画を設計する。

承継には、税負担を抑える方法や、円滑に進めるための制度もある。専門家は、それらを踏まえた、最適な進め方を提案してくれる。ただし、丸投げはしない。「承継は時間がかかる」「後継者育成・株移転・関係者合意が要る」という全体像を理解した上で相談すれば、自分の望む承継を、専門家とともに設計できる。承継計画は、専門知識と、自分の意思の、両方で作る。

「早く始める」が、すべてを左右する

事業承継計画で、最も大事な原則は、早く始めることだ。後継者の育成も、株の計画的な移転も、関係者の合意も、税務の対策も——すべて、時間が味方になる。

引退間際に慌てて始めれば、後継者は育たず、税負担は重く、関係者は戸惑う。だが、何年も前から計画的に進めれば、すべてが円滑に、有利に運ぶ。「まだ早い」と思う時期から、始める。事業承継は、早く動いた人が、最も納得のいく形で、事業を次へ渡せる。

拡大期の一人社長へ

事業を引き継ぐと決めたら、それは、何年もかけて進める一大プロジェクトだ。思いつきや駆け込みでは、うまくいかない。

承継を長期のプロジェクトと捉え、後継者の選定と育成を早めに始め、株の移転を計画的に進め、関係者の理解を得て、専門家を交えて税務・法務を設計する。そして何より、早く始める。事業承継は、一人社長の事業の集大成であり、自分が築いたものを、次の世代へ確かに渡す営みだ。その大切な引き継ぎを、納得のいく形で実現するために、拡大期のうちから、計画的に準備を進めたい。