この記事の結論
一人社長の会社の株(自社株)は、市場で売買されないが、相続や承継のときに「評価」される。そして、会社が成長するほど、その評価額は上がる。評価額が高いと、相続・贈与のときに、思わぬ税負担を生む。対策には時間がかかるため、法人期のうちに、自社株評価の基本を理解し、早めに現状を確認しておく。「儲かっている会社ほど、株の相続が重くなる」という構造を知っておきたい。
この記事は、Lv.4(法人期)の一人社長に向けて書いています。
「売れない株」にも、値段がつく
一人社長の会社の株は、上場企業の株と違い、市場で売買されない。だから、普段は「株の値段」を意識することはない。自分が全株を持っていて、それで終わり、という感覚だ。
だが、相続や事業承継の場面になると、話が変わる。その「売れない株」にも、評価額がつくのだ。相続税や贈与税を計算するために、自社株の価値が、一定のルールに従って算定される。そして、この評価額が、思わぬ大きさになることがある。普段意識しない自社株の価値が、いざというときに、重い税負担として現れる。これが、法人を持つ一人社長が知っておくべき、見えにくいリスクだ。
会社が成長するほど、評価額が上がる
自社株の評価額は、会社の状態によって決まる。大まかに言えば、会社の資産や利益が大きいほど、評価額は高くなる。
つまり、事業が順調に成長し、会社に利益や資産が蓄積されるほど、自社株の評価額も上がっていく。これは、事業の成功の証だ。だが、相続の観点からは、諸刃の剣になる。会社が大きくなるほど、その株を相続する家族の税負担が、重くなるからだ。
「会社は儲かっているのに、株の評価が高すぎて、相続する家族が納税に困る」。これは、成功した一人社長の法人で、実際に起こり得る問題だ。成長と、相続の負担は、連動している。
評価額が、相続税・贈与税に影響する
自社株の評価額が問題になるのは、主に2つの場面だ。
相続のとき
経営者に万一のことがあり、株が相続されるとき。評価額が高ければ、相続税が高くなる。しかも、株は現金ではないので、納税のための現金を、別に用意する必要がある。「相続するのは株、納税は現金」というミスマッチが、家族を苦しめることがある。
生前の承継(贈与)のとき
生きているうちに、株を後継者に渡す(贈与する)場合も、評価額に応じた贈与税がかかる。評価額が高いと、渡すだけで大きな税負担が生じる。
いずれにせよ、自社株の評価額は、事業を次の世代に引き継ぐときの、大きなハードルになり得る。
対策には「時間」がかかる
自社株の評価額には、引き下げる対策や、計画的に承継する方法がある。だが、これらの対策に共通するのは、時間がかかることだ。
評価額を適正にする工夫、計画的な株の移転、納税資金の準備——これらは、一朝一夕にはできない。何年もかけて、少しずつ進めるものだ。引退間際になって慌てても、打てる手は限られる。早く始めるほど、選べる対策は多く、効果も大きい。
だからこそ、法人期のうちに、自社株評価という論点があることを知っておく。今すぐ対策しなくても、「いずれ向き合う問題だ」と認識しているだけで、動き出しが変わる。
早めに「現状」を確認する
自社株評価は、専門的で複雑な分野だ。評価の方法も複数あり、自分で正確に計算するのは難しい。だから、法人期に一度、専門家(税理士など)に現状を確認してもらう価値がある。
「今、自社株の評価額は、おおよそどれくらいか」「将来、相続や承継のとき、どんな負担が見込まれるか」。現状を把握すれば、対策が必要かどうか、必要ならいつから動くべきかが見える。
ここでも、丸投げはしない。「自社株に評価額がつく」「成長するほど上がる」「対策には時間がかかる」という基本を理解した上で相談すれば、専門家の話が腹落ちし、自分の事業に合った判断ができる。
法人期の一人社長へ
自社株は、普段意識しない「売れない株」だが、相続や承継のときに評価され、思わぬ税負担を生むことがある。しかも、会社が成長するほど、その評価額は上がっていく。成功が、相続の重さに直結するという構造を、知っておきたい。
自社株に評価額がつくこと、成長すると上がること、相続・贈与に影響すること、対策には時間がかかることを理解し、早めに専門家に現状を確認してもらう。法人期は、まだ承継を考えるには早く感じるかもしれない。だが、自社株評価は、早く知り、早く動くほど、選べる手が増える。事業の成功を、次の世代への重荷にしないために、法人期のうちに、この論点を視野に入れておきたい。