この記事の結論
年商が上がると「法人化したほうがいい」と言われる。だが、法人化は「偉くなること」でも、ゴールでもない。損得と必要性で判断する経営判断だ。鍵は、税負担の分岐点を把握しつつ、社会保険・手間・コストの増加も計算に入れること。そして、取引・信用の面で法人が必要かを見る。人の言葉ではなく、自分の数字で決める。最後は、試算を税理士に確認する。
この記事は、Lv.3(安定期)の一人社長に向けて書いています。
「そろそろ法人化」と言われ始める
年商が上がってくると、周りから、あるいは税理士から、「そろそろ法人化したほうがいいですよ」と言われ始める。「節税になる」「信用が上がる」。そう聞くと、法人化しないと損な気がしてくる。
だが、ここで立ち止まりたい。法人化は、偉くなることでも、事業のゴールでもない。器(個人事業か法人か)を変える、一つの選択にすぎない。そして、法人化には、メリットだけでなく、コストや手間も伴う。「法人化したほうがいい」という言葉を鵜呑みにせず、本当に今、自分の段階で得なのかを、自分で判断する。これは、専門家のポジショントークを見抜くことや、全体最適で考えることの、実践でもある。
「税負担の分岐点」を把握する
法人化の損得を判断する、最大の要素が、税負担だ。
個人事業は、所得が増えるほど税率が上がる(累進課税)。一方、法人税は、比較的フラットだ。だから、所得がある水準を超えると、法人のほうが税負担が軽くなる、という分岐点がある。
一般に、その分岐点は、所得が年800万〜1,000万円あたりと言われることが多い(あくまで目安。役員報酬の設計や各種条件で変わる)。これを下回る段階で法人化しても、税負担の面では、メリットが出にくいことがある。まず、自分の所得が、この分岐点に対してどのあたりかを、把握する。具体的な数字は、最新の税制で確認する。
「増えるコスト・手間」も計算に入れる
法人化の判断で、見落とされがちなのが、法人化で増えるコストと手間だ。税負担が下がる分だけ見て、これを忘れると、判断を誤る。
- 社会保険:法人は社長一人でも加入義務。会社負担分が、新たなコスト(→ 社会保険の加入手続き)
- 設立・維持コスト:設立費用、赤字でもかかる法人住民税の均等割
- 手間:決算・申告が複雑になり、税理士が事実上必要になることが多い(その顧問料)
- お金の管理:会社と個人の厳密な分離が求められる
これらの増加分を、税負担の軽減と差し引きする。「税金は下がったが、社会保険と顧問料で、トータルでは大して変わらない」ということもある。損得は、税金だけでなく、コスト・手間の総額で見る。
「税金以外」の理由も見る
法人化の判断は、損得(税金・コスト)だけではない。税金以外の必要性も、重要な判断材料だ。
- 取引・信用:取引先が「法人としか取引しない」、大きな取引に法人が必要、など(→ 法人の信用力)
- 事業の拡大:人を雇う、資金調達する、といった拡大に、法人が適している
- 責任の範囲:有限責任など、法人ならではの面
税負担では分岐点に達していなくても、取引や信用の面で「法人でないと、この仕事が取れない」なら、それは法人化する理由になる。逆に、税金だけが目的で、必要性がないなら、急がなくていい。損得と、必要性。両面で見る。
「数字を出してから」専門家に確認
法人化の判断は、最終的に、自分の数字で試算してから、税理士に確認するのが正解だ。
自分の所得、見込み、増えるコストを、おおまかに数字にしてみる。その上で、「自分の場合、法人化すると、トータルでどう変わるか」を、税理士に試算してもらう。税理士は、具体的な数字で、損得を示してくれる。
ただし、丸投げはしない。「分岐点」「増えるコスト」「税金以外の必要性」という枠組みを、自分が理解した上で相談する。そうすれば、税理士の試算を判断でき、自分の段階に合った決断ができる。これは、専門家と対等に付き合うことでもある。
安定期の一人社長へ
年商が上がると「法人化したほうがいい」と言われ始める。だが、法人化は、偉くなることでもゴールでもなく、損得と必要性で判断する経営判断だ。人の言葉に流されて、必要のない段階で法人化すると、コストと手間が増えるだけ、ということもある。
税負担の分岐点を把握し、増えるコスト・手間も計算に入れ、税金以外の必要性(取引・信用)も見る。そして、自分の数字で試算してから、税理士に確認する。「そろそろ法人」を、雰囲気ではなく、自分の数字で決める。それが、踊らされない一人社長の、法人化の判断だ。実際に法人化すると決めたら、会社設立の実務へ進む。