この記事の結論
簡易課税は、消費税の納税額を計算するやり方の一つだ。基準期間(原則2年前)の売上が5000万円以下なら選べる。中身はシンプルで、実際に払った消費税を一つひとつ集計せず、「預かった消費税 × みなし仕入率」で納税額を出す。仕入れの集計がいらないぶん事務が軽く、仕入れの少ない業種では原則課税より有利になることもある。ただし、使うには課税期間が始まる前の届出が必要で、一度選ぶと原則2年は継続になる。設備投資の予定なども含めて、有利な方を選びたい。
この記事は、Lv.3(安定期)の一人社長に向けて書いています。
簡易課税とは「みなし仕入率」で計算する方法
消費税の納税額は、本来「お客さんから預かった消費税 − 自分が仕入れや経費で払った消費税」で計算する。これが原則的なやり方(原則課税・本則課税)だ。詳しくは消費税の申告と納付で扱っているとおり、払った消費税を一つひとつ集計する必要がある。
簡易課税は、この「払った消費税の集計」を省くための制度だ。実際に払った額を数えるかわりに、「預かった消費税のうち、これくらいは仕入れで払ったことにしよう」という割合をあらかじめ決めておく。この割合がみなし仕入率だ。
計算式はこうなる。
納税額 = 預かった消費税 − (預かった消費税 × みなし仕入率)
たとえば預かった消費税が100万円、みなし仕入率が50%なら、100万円 −(100万円 × 50%)= 50万円が納税額になる。仕入れの実額を見なくていいので、計算が一本道になる。
みなし仕入率は「事業区分」で決まる
みなし仕入率は、自分で好きに決められるわけではない。**事業の種類(事業区分)**ごとに、国がパーセンテージを定めている。代表的なものはこうだ。
- 卸売業:90%
- 小売業:80%
- 製造業など:70%
- その他(飲食店など):60%
- サービス業など:50%
- 不動産業:40%
率が高いほど「仕入れで払ったことにする額」が大きくなり、結果として納税額は小さくなる。ここで分かるのが、仕入れの少ない業種ほど簡易課税が効きやすいという点だ。
たとえばサービス業(みなし仕入率50%)の一人社長は、実際の仕入れが売上の20%しかなかったとしても、計算上は「50%ぶん仕入れた」ことにできる。実額より多く差し引けるので、原則課税より納税額が小さくなることがある。逆に、仕入れの多い業種では原則課税の方が有利になりやすい。
メリットと注意点を両方おさえる
簡易課税の一番の利点は、事務が軽くなることだ。原則課税のように、領収書ごとに「これは消費税10%」「これは8%」と仕分けして集計する手間がいらない。売上の消費税さえ把握できれば納税額が出るので、経理の負担がぐっと下がる。
一方で、注意点もある。
- 事前の届出が必須:使いたい課税期間が始まる前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す必要がある。決算後に「やっぱり簡易にしたい」と振り返って選ぶことはできない。
- 原則2年は継続:一度選ぶと、原則として2年間は変えられない。やめたいときも、やめる課税期間の前に「不適用届出書」を出す必要がある。
- 大きな設備投資の年は注意:店舗の改装や高額な機材購入など、大きな支出がある年は、払った消費税が多くなる。原則課税なら全額差し引けるのに、簡易課税だと「みなし仕入率ぶん」しか引けず、損になることがある。投資の予定があるなら慎重に。
「事務がラクだから」だけで飛びつくと、投資の年に後悔することがある。自分の数年先の支出まで見渡して決めたい。
原則課税・2割特例と比べて選ぶ
消費税の計算には、簡易課税のほかに原則課税と、インボイスをきっかけに始めた人向けの2割特例がある。2割特例は、預かった消費税の2割だけを納める仕組みで、こちらの詳細はインボイスの2割特例で解説している。
ざっくり整理すると、こうなる。
- 仕入れが多い/大きな投資がある → 原則課税が有利になりやすい
- 仕入れが少ない(サービス業など) → 簡易課税が効きやすい
- インボイス登録で課税事業者になったばかり → 2割特例が使えれば、それが一番軽いことが多い
大事なのは、自分の業種と数字で実際に比べてみることだ。みなし仕入率と実際の仕入率を見比べれば、どちらが得かはだいたい見えてくる。インボイス制度全体の流れは消費税・インボイス対応にまとめてあるので、合わせて読んでおくと判断しやすい。
数字が入り組んで自分では決めきれないときは、税理士に試算してもらうのが堅い。届出のタイミングを逃すとその年は選べなくなるので、迷っているなら早めに相談しておきたい。
安定期の一人社長へ
簡易課税は、「預かった消費税 × みなし仕入率」で納税額を出す、計算をラクにするための制度だ。仕入れの少ない業種なら、事務が軽くなるうえに納税額まで小さくできることがある。
ただし、効くかどうかは業種と数字しだい。そして、使うには課税期間が始まる前の届出が要り、一度選ぶと2年は継続する。設備投資の年に裏目に出ることもあるので、目先の手間だけでなく、数年先まで見て判断したい。原則課税・2割特例と並べて、自分にとって有利な方を選ぶ——これが安定期の一人社長の落としどころだ。決めきれなければ、税理士に試算を頼むのが近道になる。