この記事の結論
人を雇うと、自分一人のときにはなかった、保険の手続きが一気に増える。従業員のための労災保険・雇用保険(労働保険)、そして条件を満たせば社会保険への加入。これらは、雇う側の義務だ。労災は原則すべての従業員が対象、雇用保険・社会保険には加入条件がある。手続きは複雑なので、不安なら社労士を頼る。人を雇うことは、手続きの責任も引き受けることだ。
この記事は、Lv.5(拡大期)の一人社長に向けて書いています。
人を雇うと、手続きの世界が広がる
自分一人で事業をしているときは、保険といえば、自分自身の健康保険・年金くらいだった。だが、従業員を雇うと、状況が一変する。従業員のための保険手続きが、新たに必要になる。
労働保険(労災保険・雇用保険)、そして社会保険(健康保険・厚生年金)。これらに、従業員を加入させる手続きが、雇う側の義務として発生する。「人を雇う」とは、給与を払うだけでなく、こうした保険や手続きの責任を引き受けることでもある。この手続きの世界を、知らずに雇うと、後で慌てる。全体像を、押さえておきたい。
労災保険:原則すべての従業員が対象
まず押さえたいのが、労災保険だ。労災保険は、従業員が仕事中や通勤中にケガ・病気をしたときに備える保険だ。
労災保険は、原則として、一人でも従業員を雇えば、加入手続きが必要になる。パートやアルバイトを含め、雇った従業員は、原則すべて対象だ。保険料は、全額会社負担。従業員を守るための、最も基本的な保険であり、雇用したら、まず手続きすべきものだ。万一、従業員が業務中にケガをして、労災に未加入だったら、大きな問題になる。
雇用保険:加入条件を確認
次に、雇用保険。雇用保険は、従業員が失業したときの給付や、育児・介護休業の給付などを支える保険だ。
雇用保険には、加入の条件がある。週の労働時間や、雇用見込みの期間など、一定の条件を満たす従業員が、加入対象になる。短時間のアルバイトなどは、条件によって対象外のこともある。雇った従業員が、雇用保険の加入対象かを確認し、対象なら、加入手続きをする。労災保険と雇用保険を合わせて「労働保険」と呼ぶ。なお、労働保険は加入して終わりではなく、毎年6〜7月の労働保険の年度更新で、保険料を申告・精算する年次手続きが続いていく。
社会保険:従業員分の加入義務
法人の場合、社長自身が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することは、すでに見たとおりだ。従業員を雇うと、一定の条件を満たす従業員も、社会保険に加入させる義務が生じる。
加入対象となる従業員の保険料は、会社と従業員で折半する。つまり、従業員を雇うと、その社会保険料の会社負担分が、新たなコストとして発生する。給与だけでなく、この社会保険料の会社負担も含めて、雇用のコストを考える必要がある。加入条件(労働時間など)を確認し、対象となる従業員を、適切に加入させる。
「雇用の本当のコスト」を理解する
これらの保険手続きとコストは、雇用を考えるときに、必ず織り込むべきものだ。
人を雇うコストは、給与だけではない。労災保険料、雇用保険料、社会保険料の会社負担。これらを合わせると、雇用の実コストは、額面の給与より、かなり大きくなる。「業務委託 vs 雇用」を判断するときも、この保険コストを含めて考える。手続きの手間も、コストの一部だ。雇用の重さを、保険の面からも、正しく理解しておく。
複雑なら、社労士を頼る
労働保険・社会保険の手続きは、種類が多く、条件も細かく、複雑だ。初めて人を雇う一人社長が、すべてを正確にこなすのは、簡単ではない。手続きに不安があれば、社労士(社会保険労務士)に頼るのが現実的だ。
社労士は、これらの保険手続きや、労務管理の専門家だ。手続きを代行してもらえば、本業に集中できる。ただし、丸投げはしない。「人を雇うと労災・雇用・社会保険の手続きが要る」「それぞれに条件とコストがある」という全体像を理解した上で頼めば、適切に任せられる。手続きの責任は、最終的には雇う側にあることを、忘れない。
拡大期の一人社長へ
人を雇うことは、給与を払うだけでなく、社会保険・労働保険という、手続きの世界に足を踏み入れることだ。労災保険は原則すべての従業員が対象、雇用保険・社会保険には加入条件があり、いずれも雇う側の義務だ。
人を雇うと保険手続きが増えると理解し、労災・雇用・社会保険それぞれの対象と義務を把握し、雇用の本当のコストを織り込む。そして、手続きが複雑なら、社労士を頼る。これらは、従業員を守るための、雇う側の責任だ。手続きの世界が広がることを、雇用の判断に織り込んでおく。それが、拡大期に人を雇う一人社長の、備えるべき現実だ。