この記事の結論

法人で、配偶者などの家族を役員にすると、役員報酬による所得分散などのメリットがある。だが、役員には、従業員とは違う責任も伴う。そして、名目だけの役員は、税務上問題になり得る。判断の鍵は、役員と従業員の違いを理解し、メリットと責任の両方を踏まえること。実態のある関与を前提に、税理士と相談して判断する。家族を役員にするのは、メリットと責任の両方を渡すことだ。

この記事は、Lv.4(法人期)の一人社長に向けて書いています。

家族を「役員にする」という選択

法人で家族と働くとき、選択肢が2つある。家族を、**従業員(給与を払う)**にするか、**役員(役員報酬を払う)**にするか。前者は、配偶者の給与設計で触れた。ここでは、後者——家族を役員にする——を考える。

家族を役員にすると、役員報酬を通じた所得分散などのメリットがある。一方で、役員になることには、従業員とは違う意味と責任が伴う。「家族だから、役員にしておこう」と安易に決めるのではなく、メリットと責任の両方を理解した上で、判断したい。

役員と従業員の「違い」

まず、役員と従業員は、法律上、扱いが違う。

  • 従業員:会社に雇われて働く人。給与をもらい、労働法で守られる
  • 役員:会社の経営を担う人(取締役など)。役員報酬をもらい、労働法の保護は基本的にない

役員は、会社を経営する立場であり、その分、責任も重い。役員報酬は、労働の対価というより、経営を担うことへの対価だ。そして、役員報酬には、期首から一定期間内に決め、その期は原則変えられないといった、独自のルールがある。家族を役員にするということは、家族に、この「経営を担う立場」を与えることだ。

所得分散などのメリット

家族を役員にする主なメリットは、配偶者を従業員にする場合と同様、所得分散だ。

社長一人に役員報酬を集中させるより、家族にも役員報酬を分けることで、世帯全体の所得税率を抑え、税負担を軽減できることがある。また、役員報酬は、適正な範囲なら、会社の経費(損金)になる。世帯と会社の両面で、メリットが生じ得る。

加えて、家族が役員として経営に関わることで、事業の意思決定に、家族の視点が入る、という面もある。家族経営として、一体感を持って事業を営む形だ。

役員には「責任」が伴う

ただし、役員にすることには、メリットだけでなく、責任が伴う。これを見落としてはいけない。

取締役などの役員は、善管注意義務や忠実義務といった、法的な責任を負う。会社に損害を与えれば、役員個人が責任を問われることもある。家族を役員にするということは、その責任を、家族にも負わせるということだ。

「名前だけ役員に」と安易に考えると、この責任の重さを見落とす。役員にする家族が、その立場と責任を理解し、納得しているか。経営に関わる意思があるか。これを確認した上で、役員にする。責任を渡すことの意味を、軽く考えない。

「実態のある関与」が前提

税務の観点で、重要なのが、実態だ。家族を役員にして役員報酬を払うなら、その家族が、実際に経営や業務に関与している実態が要る。

まったく関与していないのに、名目だけ役員にして報酬を払うと、税務上、その報酬が否認されるリスクがある。役員報酬は、その役員が、実際に会社のために果たしている役割に見合ったものでなければならない。家族を役員にするなら、実際に何らかの形で経営や業務に関与してもらう。名ばかりではなく、実態を伴わせる。これは、配偶者の給与の「実態のある労働」の原則と、同じ考え方だ。

税理士と相談して判断する

家族を役員にするかの判断は、所得分散のメリット、役員報酬のルール、責任、実態の要件、社会保険への影響などが絡み、複雑だ。ここは、税理士と相談して判断するのが確実だ。

ただし、丸投げはしない。「役員と従業員の違い」「所得分散のメリット」「役員の責任」「実態が前提」という基本を理解した上で相談すれば、自分の世帯と会社にとって、役員にするのが適切かを、判断できる。税理士は、税務面の最適を教えてくれる。それを踏まえ、責任や家族の意思も含めて、最終的に自分で判断する。

法人期の一人社長へ

法人で家族を役員にすると、役員報酬による所得分散などのメリットがある。だが、役員には、従業員とは違う責任が伴い、名目だけの役員は税務上問題になり得る。家族を役員にするのは、メリットと責任の両方を、家族に渡すことだ。

役員と従業員の違いを理解し、所得分散のメリットを把握し、役員の責任を理解する。実態のある関与を前提とし、税理士と相談して判断する。家族を役員にするかは、節税の損得だけでなく、責任を渡すことの意味、家族の意思、実態まで含めて考える。メリットと責任の両面を踏まえて判断することが、家族と事業の、健全な関係を保つ。それが、法人期の一人社長の、家族と経営をめぐる判断だ。