この記事の結論
法人の事業承継は、個人事業と違い、「株式」と「代表の座」を分けて引き継ぐ。そして、自社株は相続財産になり、評価額によっては相続税の問題になる。承継先には、家族・第三者・売却・清算といった選択肢がある。これらは、いざというときに慌てて決められるものではない。法人期から、早すぎるくらいの段階で、少しずつ考え始める意味がある。
この記事は、Lv.4(法人期)の一人社長に向けて書いています。
法人は「株式」と「代表」を引き継ぐ
個人事業の承継は、比較的シンプルだった。事業を畳むか、誰かに引き継ぐか。だが法人は、構造が違う。法人を引き継ぐとは、主に2つを引き継ぐことを意味する。
株式(会社の所有権)
一人社長の会社は、たいてい社長が全株式を持っている。この株式は、会社の所有権だ。株式を引き継ぐとは、会社の持ち主が変わること。
代表取締役の座(経営権)
会社を実際に動かす立場。誰が経営の舵を取るか。
この2つは、別々に引き継げる。たとえば、株式は家族に相続させつつ、経営は別の人に任せる、といったこともできる。法人の承継は、所有と経営を分けて考えるところから始まる。
自社株は「相続財産」になる
ここが、一人社長が見落としがちな、重要な点だ。社長が持つ自社株は、相続財産になる。
会社が成長して価値が上がると、自社株の評価額も上がる。すると、社長に万一のことがあったとき、その株式に相続税がかかる。会社が儲かっているほど、株の評価が高くなり、相続する家族が、納税のために苦労する——ということが起こり得る。現金は会社にあるのに、相続するのは株で、納税は現金で、というミスマッチだ。
だから、自社株の評価がどうなっているか、将来の相続でどんな問題が起き得るかを、早めに意識しておく。これは、税理士に相談すべき代表的な論点だ。
承継先の選択肢
会社を将来どうするか。選択肢を知っておくと、考えやすくなる。
家族に承継する
子どもなど家族に、株式と経営を引き継ぐ。会社を残したい場合の選択肢。ただし、引き継ぐ家族の意思と能力が前提になる。
第三者に承継する
家族に適任者がいない場合、信頼できる役員や外部の人に引き継ぐ。
売却(M&A)する
会社を、第三者に売る。事業に価値があれば、対価を得て手放せる。後継者がいなくても、事業を残せる道だ。近年は、小さな会社のM&Aも増えている。
清算する
引き継がず、会社を畳む。価値ある引き継ぎ先がない場合の選択肢。
どれが正解ということはない。会社の状況、家族の意思、自分の希望によって変わる。大事なのは、選択肢を知り、早めに方向性を考え始めることだ。
「早すぎるくらい」で、ちょうどいい
事業承継は、引退間際に考えるもの、と思われがちだ。だが実際は、準備に時間がかかる。
自社株の評価対策、後継者の育成、関係者の合意形成——これらは、何年もかけて少しずつ進めるものだ。直前になって慌てても、選べる手は限られる。早い段階から考え始めれば、打てる手が多く、税負担も抑えられる可能性が高まる。
法人期は、事業を伸ばすことに集中する時期で、承継はまだ先の話に感じる。だが「いつか必ず来る話」として、頭の片隅に置いておく。年に一度、自社株の状況を確認するだけでも、意味がある。早すぎるくらいで、ちょうどいい。
専門家に相談すべき論点
事業承継は、税務・法務が複雑に絡む領域だ。特に、自社株の評価と相続・贈与の対策は、専門知識が要る。ここは、税理士など専門家に相談する価値が高い。
ただし、これまでの記事と同じく、丸投げはしない。「自社株が相続財産になる」「承継には複数の選択肢がある」「早めの準備が効く」——この基本を自分が理解した上で、専門家に相談する。何が論点かを知っているから、適切な質問ができ、提案を判断できる。
法人期の一人社長へ
法人を持つということは、いつか「この会社をどうするか」という問いに向き合うということだ。株式と代表を引き継ぐのか、売るのか、畳むのか。自社株は相続財産になり、会社が成長するほど、その問題は大きくなる。
法人期は、まだ承継を考えるには早く感じるだろう。だが、準備に時間がかかるからこそ、早い段階から少しずつ意識しておく。選択肢を知り、自社株の状況を把握し、必要なら専門家に相談する。事業を始め、育てるのと同じように、いつか手放すときのことも、自分で設計する。それが、法人を持つ一人社長の、長い視点での責任だ。