この記事の結論

法人になると、「節税になる」という法人保険の提案が増える。だが、保険はまず保障が本来の目的であり、「節税」の実態の多くは「課税の繰り延べ」にすぎない。税制改正で扱いが変わるリスクもある。だから、節税の言葉に飛びつかず、保障の目的、出口、提案者の利害を冷静に見る。「節税になる」の前に、「何のための保険か」を問う。

この記事は、Lv.5(拡大期)の一人社長に向けて書いています。

法人になると、保険の提案が増える

法人になり、利益が出てくると、保険の提案が一気に増える。「法人保険で節税できます」「利益を保険で圧縮しましょう」。保険会社や代理店からの提案、知人からの紹介。法人保険は、利益の出ている法人にとって、魅力的な話に聞こえる。

だが、ここでも、これまでの記事で繰り返してきた姿勢が要る。「節税」という言葉に飛びつかず、冷静に実態を見ることだ。法人保険は、仕組みが複雑で、メリットだけでなく、見落としやすい注意点も多い。提案を鵜呑みにせず、自分で判断できる視点を持っておきたい。

まず「保障」が本来の目的

保険の本来の目的は、何か。それは、万一への保障だ。経営者に何かあったときの備え、会社を守るための保障。これが、保険の出発点だ。

法人保険を考えるときも、まず「保障として必要か」を問う。経営者が倒れたら困る、借入の保証をカバーしたい、従業員への備えがいる——こうした保障のニーズがあるなら、保険は意味を持つ。だが、保障のニーズがないのに、「節税になるから」だけで入るのは、目的と手段が逆転している。節税は、あくまで付随的なメリットであって、保険の本来の目的ではない。まず、保障として必要かを確認する。

「節税」の実態は「繰り延べ」

法人保険の「節税」効果には、注意が要る。その実態の多くは、税金が消えるのではなく、「課税の繰り延べ」だ。

保険料を払うときは、一部または全部が損金になり、その年の利益が圧縮され、法人税が減る。だが、後で保険を解約して解約返戻金を受け取るとき、それは利益(益金)になり、課税される。つまり、払うときに減った税金が、受け取るときに戻ってくる。トータルで見れば、課税のタイミングをずらしているだけ、ということが多い。

繰り延べが無意味なわけではない。だが、「節税」という言葉から、税金が消えると誤解すると、出口で慌てる。繰り延べた税金は、いつか払う。これを前提に考える。

税制改正のリスクを知る

法人保険を取り巻く税制は、たびたび改正される。過去にも、「節税保険」として人気だった商品が、税制改正で、節税メリットを大きく制限されたことが、何度もある。

今、節税になると言われている仕組みが、数年後も同じとは限らない。改正されれば、当初の想定が崩れることもある。法人保険は、長期にわたる契約だ。その長い期間の途中で、税制が変わるリスクを、織り込んでおく。「今、節税になる」を、永続する前提で考えない。これも、冷静な判断の一部だ。

「出口」を最初に考える

法人保険、特に節税目的の保険で、最も大事なのが、出口だ。いつ、どう解約し、その解約返戻金をどう使うか。

解約のタイミングによって、戻ってくる金額(返戻率)は変わる。そして、解約返戻金は益金になるため、そのタイミングで大きな利益が出る。その利益を、どう活用するか(退職金に充てる、赤字の年にぶつける等)まで、最初に計画しておく必要がある。出口の計画なしに入ると、解約時に、想定外の課税で困ることになる。「入口(加入)」より「出口(解約と活用)」を、先に設計する。

提案者の「利害」を意識する

法人保険を提案する人(保険会社、代理店)には、手数料という利害がある。保険が成約すれば、提案者に手数料が入る。これは悪いことではないが、提案が、その方向に傾く可能性は、意識しておく。

「節税になる」という提案の裏に、提案者のメリットがある。だから、提案を鵜呑みにせず、本当に自分の会社にとって最善か、自分で判断する。複数の視点で検討する、利害のない人に相談する、といった工夫も有効だ。これは、専門家のポジショントークを見抜く、という話とも通じる。提案者の利害を意識した上で、自分で決める。

拡大期の一人社長へ

法人になり利益が出ると、「節税になる」という法人保険の提案が増える。だが、保険はまず保障が目的であり、「節税」の実態の多くは課税の繰り延べだ。税制改正のリスクもあり、出口の設計も要る。

節税の言葉に飛びつかず、保障の目的を確認し、繰り延べの実態を理解し、税制改正のリスクを知り、出口を最初に考え、提案者の利害を意識する。法人保険は、正しく使えば、保障と資金計画の有効な手段になる。だが、「節税」だけを目的に、よく分からないまま入ると、後で後悔する。「節税になる」の前に、「何のための保険か」を問う。その冷静さが、拡大期の一人社長を、うまい話から守る。