この記事の結論
拡大期まで来ると、独立した頃の動機と、今の自分の気持ちが、ずれてくることがある。それは自然なことだ。事業の意味は、一度決めたら固定ではなく、変わっていい。「なぜ、この事業をやるのか」を改めて問い、お金や規模以外の意味を言葉にする。そして、再定義した意味を、これからの判断軸にする。意味を問い直すことは、事業を続ける力を、新たに得ることだ。
この記事は、Lv.5(拡大期)の一人社長に向けて書いています。
動機は、ずれてくる
独立したとき、あなたには動機があった。自由になりたい、好きなことをやりたい、自分の力を試したい、誰かの役に立ちたい。その動機が、ここまで事業を続ける原動力になってきた。
だが、拡大期まで来ると、ある変化に気づくことがある。独立した頃の動機と、今の自分の気持ちが、ずれてきている。当時欲しかった自由は、もう手に入れた。証明したかったことは、証明した。あるいは、当時の動機が、今はもう、心を動かさなくなっている。
このずれに気づくと、戸惑う。「なぜ、自分はこの事業を続けているんだろう」。だが、このずれは、おかしなことでも、悪いことでもない。むしろ、ここまで来たからこそ訪れる、自然な問いだ。
「なぜやるのか」を、問い直す
拡大期は、事業の「なぜ」を、改めて問い直すのにいい時期だ。「なぜ、自分はこの事業をやるのか」。
独立時に答えた問いを、今の自分で、もう一度答えてみる。当時と同じ答えかもしれないし、違う答えが出てくるかもしれない。お金のためか、自由のためか、誰かのためか、自己表現か、社会への貢献か。今の自分にとって、この事業は、何を意味するのか。
この問い直しは、立ち止まることではなく、これから進む方向を、改めて定めることだ。なぜやるのかが曖昧なまま走り続けると、どこかで力が尽きる。意味を問い直すことで、進む理由を、新たに得る。
意味は「変わっていい」
ここで、自分に許したいことがある。事業の意味は、変わっていいということだ。
独立時の動機を、ずっと持ち続けなければならない、ということはない。人は変わる。状況も変わる。かつて「お金を稼ぎたい」が動機だった人が、今は「誰かを育てたい」に変わっていてもいい。「自由になりたい」だった人が、今は「良いものを世に残したい」になっていてもいい。
動機が変わったことを、「初心を忘れた」と責める必要はない。それは、あなたが成長し、変化した証だ。事業の意味を、その時々の自分に合わせて、更新していく。意味の再定義を、自分に許す。それが、長く事業を続ける、しなやかさになる。
お金や規模「以外」の意味を言葉にする
拡大期まで来ると、お金や規模は、ある程度満たされていることが多い。そして、お金や規模だけでは、心が満たされないことにも、気づき始める。
だからこそ、お金や規模以外の意味を、言葉にしてみる。この事業を通じて、誰に、どんな価値を届けているのか。自分は、何を表現し、何を残したいのか。働くことで、どんな人とつながり、どんな自分でいられるのか。
こうした、数字にならない意味を言葉にすると、事業が、単なる収入の手段から、自分の人生の表現へと、捉え直される。お金以外の意味を持てる人は、お金が満たされた後も、事業を続ける理由を失わない。
再定義した意味を、判断軸にする
事業の意味を再定義したら、それを、これからの判断軸にする。
「なぜやるのか」が新たに定まれば、これから何をやり、何をやらないかが、見えてくる。規模を追うのか、追わないのか。どんな仕事を受け、どんな仕事を断るのか。誰と組み、どこへ向かうのか。再定義した意味に照らせば、これらの判断が、ぶれなくなる。
意味の再定義は、抽象的な内省で終わらせない。それを、具体的な判断の軸として使う。新しい「なぜ」が、これからの事業の、羅針盤になる。
拡大期の一人社長へ
拡大期は、独立した頃の動機と、今の気持ちがずれてくる時期だ。当時欲しかったものは手に入れ、当時の動機は、もう心を動かさないかもしれない。だが、そのずれは、自然なことだ。事業の意味は、一度決めたら固定ではない。
独立時の動機と今のずれを認め、「なぜやるのか」を改めて問い、意味は変わっていいと自分に許す。お金や規模以外の意味を言葉にし、再定義した意味を、これからの判断軸にする。事業の意味を問い直すことは、立ち止まることではなく、これから進む力を、新たに得ることだ。始めたときの自分と、今の自分は違う。今の自分にとっての「なぜ」を見つけ直すことが、拡大期から先も、納得して事業を続けるための、いちばんの支えになる。