この記事の結論

事業が複数になると、全体では黒字でも、足を引っ張る赤字事業が隠れていることがある。拡大期は、事業ごとに損益を分けて見える化し、「どの事業が本当に儲かっているか」を把握する。お金だけでなく、時間あたりの利益も見る。そして、撤退・縮小の判断基準を持つ。全体の数字に隠れた真実を見抜くことが、拡大期の経営判断を支える。

この記事は、Lv.5(拡大期)の一人社長に向けて書いています。

「全体の黒字」が、判断を曇らせる

拡大期になると、事業が複数になることがある。本業に加えて、新しいサービス、別の収益源。事業の幅が広がるのは、成長の証だ。

だが、ここに落とし穴がある。複数の事業を、まとめた全体の数字だけで見ていると、判断を誤る。全体では黒字でも、その中に、赤字の事業が隠れていることがある。儲かっている事業が、足を引っ張っている事業を、無意識に支えている。全体が黒字だから問題ない、と思っていると、本当は撤退すべき事業に、いつまでもリソースを注ぎ続けることになる。拡大期は、事業ごとの損益を、分けて見る必要がある。

事業ごとに「分けて把握する」

複数事業の損益管理の基本は、事業ごとに、売上とコストを分けて把握することだ。

それぞれの事業が、いくらの売上を生み、いくらのコストがかかっているか。これを分けて見て初めて、各事業が黒字か赤字か、どれだけ儲かっているかが分かる。会計上、全部まとめて記録していると、この区別がつかない。事業ごとに集計できるよう、記録の仕方を工夫する。分けて見ることが、すべての出発点だ。

隠れた「赤字事業」を見つける

事業ごとに分けて見ると、しばしば、意外な事実が見えてくる。「実は、この事業は赤字だった」。

全体の黒字に紛れて、気づかなかった赤字事業。あるいは、思っていたほど儲かっていなかった事業。逆に、地味だが実は最も利益率が高い事業。分けて見ることで、こうした真実が明らかになる。

特に、思い入れのある事業や、始めたばかりで「これから」と期待している事業ほど、冷静な数字で見ることが大事だ。感情ではなく、数字で、各事業の実態を把握する。隠れた赤字を見つけることが、適切な判断の第一歩だ。

「共通コスト」の配分を意識する

事業ごとの損益を見るとき、難しいのが、共通コストの扱いだ。事務所、ツール、自分の人件費など、複数の事業にまたがるコストがある。

これらをどう各事業に配分するかで、見え方が変わる。厳密な配分は難しいが、おおよそでも、各事業に共通コストを割り振って考える。共通コストを無視すると、各事業が実際より儲かって見えてしまう。ざっくりでいいので、「この事業に、共通コストをこれだけ乗せたら、本当に黒字か」を見る。配分の意識が、より正確な判断につながる。

「時間あたりの利益」も見る

一人社長の複数事業では、お金の損益だけでなく、時間あたりの利益も重要な視点だ。

一人社長の最も希少な資源は、自分の時間だ。だから、「どの事業が、自分の時間あたり、最も利益を生むか」を見る。売上は大きくても、自分の時間を大量に食う事業は、時間あたりで見ると、効率が悪いかもしれない。逆に、売上は小さくても、自分の時間をあまり使わずに利益を生む事業は、効率が良い。お金の損益と、時間あたりの利益。両方で見ると、リソースをどこに集中すべきかが、見えてくる。

「撤退・縮小」の判断基準を持つ

事業ごとの損益が見えたら、次は判断だ。赤字や非効率な事業を、続けるか、縮小するか、撤退するか。ここで、判断基準を持っておく。

  • 一時的な赤字か、構造的な赤字か(将来黒字化の見込みはあるか)
  • 自分の時間を、より儲かる事業に回したほうがいいか
  • その事業が、他の事業に良い影響を与えているか(撤退の波及は)

感情や惰性で、赤字事業を続けない。かといって、短期の数字だけで、将来性のある事業を切らない。基準を持って、冷静に判断する。撤退や縮小は、後ろ向きではなく、リソースを最適化する前向きな経営判断だ。

拡大期の一人社長へ

事業が複数になる拡大期は、全体の数字だけを見ていると、判断を誤る。全体の黒字に、足を引っ張る赤字事業が隠れているかもしれない。

事業ごとに売上とコストを分けて把握し、隠れた赤字を見つけ、共通コストの配分を意識する。お金だけでなく時間あたりの利益も見て、撤退・縮小の判断基準を持つ。複数事業の損益管理は、「どの事業が本当に儲かっているか」という、経営の根本を見える化する作業だ。全体の数字に隠れた真実を見抜き、限られたリソースを、最も価値ある事業に集中させる。それが、拡大期の一人社長の、お金を見る目だ。