この記事の結論

拡大期に最も怖いのは、赤字ではなく資金ショートだ。利益が出ていても、手元の現金が尽きれば事業は止まる(黒字倒産)。利益と現金は別物。鍵は、入金と出金のタイミングを管理し、数ヶ月先までの資金繰りを見通すこと。売上の拡大に、現金が追いつかない局面を、事前に察知して備える。

この記事は、Lv.5(拡大期)の一人社長に向けて書いています。

「黒字なのに、お金がない」

拡大期に入ると、不思議な現象に出くわすことがある。売上は伸び、決算上は黒字なのに、手元の現金が足りない

なぜこんなことが起きるのか。答えは、利益と現金が別物だからだ。たとえば、大きな仕事を受けて外注費や仕入れを先に払い、その売上の入金は2ヶ月後、ということがある。帳簿上は利益が出ていても、入金より先に出金がかさめば、その間、現金は減る。拡大期は、事業が伸びるからこそ、先行する支出が増え、この資金繰りの問題が現実になる。最悪の場合、利益が出ているのに資金が尽きて事業が止まる「黒字倒産」が起きる。

利益と現金は、別物

ここを、はっきり区別する。

  • 利益:売上から費用を引いた、帳簿上の儲け
  • 現金:実際に、今、手元にあるお金

この2つは一致しない。売掛金(まだ入金されていない売上)は、利益には計上されるが、現金にはなっていない。逆に、設備投資の支払いは、現金は出ていくが、その全額がその年の費用になるとは限らない。

事業を止めないために本当に必要なのは、利益ではなく現金だ。どれだけ利益が出ていても、支払いの瞬間に現金がなければ、支払えない。拡大期は、利益だけを見るのをやめ、現金の動きを追う必要がある。

入金と出金の「タイミング」を握る

資金繰り管理の本質は、お金が入るタイミングと、出ていくタイミングを把握することだ。

  • いつ、いくら入金されるか(売掛金の回収予定)
  • いつ、いくら支払うか(外注費、仕入れ、税金、固定費)

これを時系列で並べると、「どの時期に現金が薄くなるか」が見える。拡大期は、この出入りが複雑になる。大口の取引、複数の案件、税金の納付時期が重なると、一時的に現金が大きく減る局面が来る。それを事前に知っていれば、備えられる。

数ヶ月先までの「資金繰り表」を持つ

そのための道具が、資金繰り表だ。難しいものでなくていい。今後数ヶ月、毎月の「入金予定」「出金予定」「月末の現金残高」を並べた表だ。

これを見れば、「3ヶ月後に現金が危ない」といった事態を、前もって察知できる。危ないと分かれば、入金を早める、大きな支出を遅らせる、融資を検討するなど、手を打つ時間ができる。資金ショートは、突然来るのではない。資金繰り表があれば、たいてい事前に見える。拡大期の一人社長は、利益の管理だけでなく、この先々の現金の見通しを持つ。

入金を早く、出金を遅く

資金繰りを楽にする基本動作が、「入金は早く、出金は遅く」だ。

  • 請求書を早く出し、回収サイトを短くしてもらう交渉をする
  • 着手金・前払いをもらえる契約にする
  • 支払いは、無理のない範囲で猶予を交渉する

これは、相手を困らせることではなく、お互いが納得できる条件を探すことだ。入金と出金のタイミングを少し改善するだけで、手元現金の余裕はかなり変わる。拡大期に取引が大きくなるほど、この差は効いてくる。

手元資金の「最低ライン」を決める

最後に、守りの基準を持つ。「手元現金が、この額を下回ったら危険」という最低ラインを、自分で決めておく。

固定費の数ヶ月分など、自分の事業に合った水準を設定する。資金繰り表で、この最低ラインを割りそうだと分かったら、それは行動のサインだ。支出を抑える、入金を急ぐ、資金調達を考える。最低ラインを意識することで、現金が尽きる前に手を打てる。拡大の勢いに任せて現金を使い切らない歯止めにもなる。

拡大期の一人社長へ

拡大期は、事業が伸びる高揚感の裏で、資金繰りという足元のリスクが大きくなる時期だ。売上の数字に気を取られ、現金の流れを見ていないと、黒字なのに資金が尽きる、という事態に陥る。

利益と現金を区別し、入金と出金のタイミングを握り、数ヶ月先までの資金繰り表を持つ。入金を早め、出金を遅らせ、手元資金の最低ラインを守る。資金繰りは、地味だが、事業の生命線だ。拡大の勢いを本物にするのは、伸びる売上ではなく、それを支える現金の管理だ。